制度と政策
・国家中心主義(≒国家論?)
国家、ここでは主に行政が自律的に国の運営を行っているのであるという考え方。ここにおいて国家は様々な圧力活動から独立し、ただ国益のために自律的に政策目標を定め実行していくとされている。
・社会中心主義
政府は利益団体の主張が行われるアリーナであり、国家に自律性はないとする考え方。ここでは政治の本質は政府や国家ではなく社会にあるとされる。
Cf. 「一、二、多のパラダイム」
政治を三つの理論に分類する考え方。
①政治は狭い争点をめぐって同質な階層内で合意形成を目指すものであるという理論(コンセンサス理論)
②政治は対立する二つの階層の利害衝突であるとする理論(革新主義理論)
③政治は多様な利益集団らによる利益追求の競争であるとする理論(多元主義理論)
・新制度論
国家論のように、政治において利益集団よりもフォーマルな組織を重要視する考え方。そのレパートリーとして歴史的制度論や合理的選択制度論などがある。
・歴史的制度論
類似の問題を解決するために採用される政策が国ごとに異なる理由を、フォーマルな国家構造に求める理論。統治機構論的に制度の解説に力点を置くのではなく、制度の効果に着目する点が特徴的である。
Cf. イマグートの研究
フランス、スイス、スウェーデンの健康保険政策の比較によって、法案が成立するか否かは利害関係者の数ではなく(社会中心主義的に決まるのではなく)、法案を否決するための制度(=拒否点)が如何様に存在しているかによると結論付けた。
・合理的選択制度論
政治家や官僚、行政機関を合理的なアクターとみなし、それらが自身の目的の達成のために最も効果的な選択をしていくことで政治が運営されているとする理論。ゲーム理論的に政治を捉えている。
対外政策の形成
・対外政策決定と外交
対外政策に関して、その決定過程が対外政策決定であり、政策の実施段階が外交である。前者が国内的なもので民主的統制が及ぶのに対して後者は対外的な作用であり、秘密性を要するものである。しかし両者は結びつき、もはや厳密に区別できるものではなくなっている。
・国益
国家が自己の利益を最大化する際追求すべき目標のこと。リアリズムにおいては、国家の自己保存が最も重要な利益であり、国家安全保障が第一の国益として捉えられている。
Cf. リアリズム:国際関係はアナーキーであるため国家同士の対立が常態であり、協力は難しいとみなす考え方。
・ビリヤードモデル
国家安全保障を第一の国益とした場合、国益は国家間の関係によって定義されるのであり、国家内部の各主体は同一の目的をもつものとして観念できる。この結果、国内的な要因を無視して国際システムを客観的に認識することで自ずと国益や国家の動きは決定されるという考え方をビリヤードモデルという。
・合理的行為者モデル
リアリズムやビリヤードモデルの考え方において国家は対外的な要因の変化に対して常に最善の手段を選択するということが前提となっているが、その考え方を理論化したものが合理的行為者モデルとなる。(第15章を参照)
・組織過程モデル
このモデルでは各組織が独自の対応をとることで、国としては一見合理的でないような政策決定をすることがある。(第15章を参照)
・政府内政治モデル
対外政策決定におけるモデルの一つ。(第15章組織内政治モデルを参照)
・多元主義的アプローチ
階級や利益集団など社会集団の圧力が国家の政策選択を決定するという、政策決定過程に対するアプローチ。
このアプローチからは社会集団の選好を特定することができれば国家の政策選択を説明できるという議論が生まれるが、実際には社会集団が政府に対して干渉するための政治的制度が関わってくるため注意が必要である。
・逆第二イメージ
国内政治から国際関係を説明する視角(第二イメージ)に対して国際関係が国内政治に与える影響を分析する考え方。外圧について考える際有効となる。
・二層ゲーム
政府は、国際的交渉において自国の利益を最大化するという国際的ゲーム(レベルⅠ)と国内において政策に対する支持を動員するという国内政治的ゲーム(レベルⅡ)を同時に行っているという考え方。レベルⅡで受け入れ可能な妥協の幅がレベルⅠの交渉に影響を与える一方、レベルⅠにおける戦略がレベルⅡのゲームに影響を与える。
・戦略的選択
政策の決定は一国のみで形成されるわけではなく、他のアクターの政策に依存して行われるという考え方。このアプローチでは、相手にどのような合図を送るのか、約束した合意が履行されるのか、どのような情報がアクター間に存在するのか、などの問題が政策決定に影響を与える重大な要素とされている。
・相互浸透モデル
政策決定において、非国家アクターが政府に働きかけるだけでなく直接的に関与する状況を捉えるモデル。相互依存が深まれば、交渉国の双方の政策決定過程に交渉相手国の非国家アクターが関与すると考えられている。
特許法(発明・産業上の利用可能性・新規性)
○発明と発見
・発明=「自然法則を利用した技術的思想のうち高度のもの」(特許法第2条1項)
↔発見=既に存在していたものを初めて見つけ出すこと
・ただし、現代技術に対して適切な保護を与えるように「発明」について柔軟な解釈が必要
・自然法則:単なる精神活動や純然たる学問上の法則、人為的な取り決めなどは自然法則を利用しているとは言えない
cf. 錦鯉飼育法事件:藍藻類を錦鯉の餌に添加して発色をよくしようとする飼育方法は発明であるとした。(当該藍藻類の色揚げ効果が当業者にとって自明のこととはいえなかったという背景あり)
・反復可能性:当業者が反復実施することにより同一結果を得られることが必要。ただしその反復可能性が著しく低くとも、効果を挙げられることが確実であればよい。
・プログラム等について、その本質が数学的処理にあることから「発明」に該当するか議論になっていた。現在はプログラム等が「発明」に該当することが特許法2条3項に明記されている。
○産業上の利用可能性
・特許の要件の一つ cf) 新規性、進歩性、産業上の利用可能性(特許法29条)
・特許法は「発明の保護及び利用を図産業上の利用可能性ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする」(特許法第1条)ものであるから、産業上の利用可能性がないものには特許権が認められない。
・産業:工業のみならず、農林水産業、工業、商業等を指し、サービス業をも含む。(ただし医療業は産業にあたらないとされている)
・利用可能性:実際上利用されることを要さず、将来において利用される可能性があればよい(基本的発明等は産業への利用に時間がかかるため)。また利用可能性には経済的利益までは要求されない。
・個人にのみ利用できる発明→産業上の利用可能性なし
喫煙方法など純粋に個人のためのものに関しては産業上の利用可能性が否定されるが、髪にウェーブをかける方法など産業への転用が考えられる場合は産業上の利用可能性が認められ得る。
・学術的実験的にのみ利用できる発明→産業上の利用可能性なし
研究機関などでのみ使用されるものに関しては産業上の利用可能性が否定されるが、学校用の実験キット等に対しては産業上の利用可能性が認められ得る。
・医療方法:診断方法、治療方法等の発明に対しては産業上の利用可能性が否定される。医療技術は多くの人に解放されるべきであること、また医療方法に特許権を付与すると医師の診察に委縮効果を及ぼしうることなどの人道上の理由から導かれる。しかし医療業も市場とかかわりを持つサービス業であり、この考え方には問題もある。
↔物の発明:医療機器や医薬等の制御方法や製造方法については産業上の利用可能性が認められる。
○新規性(時間的基準は出願時、日ではなく時)
・特許の要件の一つ cf) 新規性、進歩性、産業上の利用可能性(特許法29条)
・新規性喪失事由
①公知:「特許出願前に日本国内または外国において公然と知られた発明には特許権は付与されない」。公然とは秘密を脱した状態。したがって守秘義務のある多数に知られていても公知と知られたとはならないが、関係のない一人に知られた場合は公然と知られたとなる。(秘密状態とは契約上守秘義務が取り決められた場合だけでなく、社会観念あるいは商慣習上守秘義務があると考えられるような状況(黙示的守秘義務の状況)も含む)
②公用:「特許出願前に日本国内または外国において公然実施された発明には特許権は付与されない」。効用というためには使用されている技術の内容が知られ得る状況になければならない。そのため、内部に発明のある発明を公に展示しただけでは直ちに公用があってとはいえない。リバースエンジニアリングが行われる状況下になった場合は、製品の譲渡の時点で公用といえるが、守秘義務を課していた場合などは製品を譲渡したとしても公用とは言えない。
③刊行物記載等:「特許出願前に日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明には特許権は付与されない。」刊行物には頒布による公開を目的とする文書や図面、デジタル記憶媒体も含まれる。刊行物に発明が記載されていると言うためには当業者が刊行物を見れば容易にその技術的思想を実施し得る程度の内容の開示が必要であり、発明品の外形や概要が記載されていても、当業者が容易に実施できなければ新規性は失われない。
・発明者の早期発表の利益等を損ない酷な結果となる場合があることを踏まえ30条で例外を設けている。
政策過程
・制約された合理性モデル(満足モデル)
合理モデル(課題の設定→選択肢の探求→結果の予測→結果の評価→選択)はあくまで理想であり実現は難しいことから、制約された合理性モデルの考え方が生まれた。特徴は
①選択肢の検討を一挙ではなく逐次的に行う
②逐次的な探求の途中で一応納得できる選択肢が発見された時点で探求を中止する。最善にはこだわらない。
③結果の評価の際の基準は制約(主に時間的制約)によって変化する。選択肢がなかなか決まらないときは要求水準が引き下げられる。
の3つ。
・公共的人間
政治家や官僚、利益団体やNPOの幹部等、意図において合理的なだけではなく事後的にも合理的な人間をさす。公共的人間は自己の下した決定についてその正当性を事後的に説明できるよう準備したうえで決定を行う。アカウンタビリティ、コンプライアンス、トランスペアランシーの観点から事後的な説明の準備が要請されている。
cf. 経済的人間:経済学などで想定される、完全な知識や予想能力等をもつ人間モデル。経済的人間は全知的な合理性を有している。
経営的人間:政治学や行政学などで想定される、制約された合理性をもつ人間モデル。経営的人間は意思決定の際、意図においては合理的だが、その過程で情報の欠如や予想能力の限界から合理性が制約されている。
・非決定権力
問題の顕在化を防ぐ力。支配者によるマインドコントロールや私的な処理によって重要な争点を隠し、都合の良い争点のみを浮上させる。
・私的な処理
問題が支配者の所まで行きつく前になされる処理。
cf. 欠陥自動車問題:欠陥自動車を購入したオーナーが、ディーラーに修理を頼んだとする。このことをメーカーに伝えると、他に欠陥自動車が存在しておりかつ同様の連絡があった場合に、欠陥自動車の存在が広く知れ渡る可能性が生じる。そのため自動車の信頼を失いたくないディーラーは、欠陥自動車を個別に修理していくことでその存在を隠すような行動をとる。
・組織による政策決定のモデル
①合理モデル:組織を人間と同様に扱って考える(課題の設定→選択肢の探求→結果の予測→結果の評価→選択)。国家安全保障に関する政策決定など、組織が集権的であり目標が一義的に定められている場合はこれになりやすい。
②組織過程モデル:複数の下位組織の連合体において、各下位組織はそれぞれ割り当てられた任務を独自に、定められた手順に従い遂行する。この結果として組織の決定が行われる。
③組織内政治モデル:組織内の役職者がその任務を最大限に実行するために、影響力を行使しあうモデル。その駆け引きの結果として組織の決定がなされる。組織過程モデルと異なり、組織内の構成単位は、他の構成単位の行動に応じながら動く。
④ゴミ缶モデル:政策決定が雑に行われているモデル。例として、理由なく決定した政策に対して後付けで必要性を考えるなど、政策と課題の逆転があげられる。組織化された無秩序(政策決定の参加者は自身の選好について確信を得ているわけではない、参加者の知識や情報不足、参加者のテンションは日ごとに違うしそもそも参加者自体が異なる場合もある)が前提となる。
・実施のギャップ
政策決定の後、実行の段階で目的の達成がなされないという問題。
①政治的な失敗:合意が得られないまま意思決定がなされたために不満な者の妨害が入る。
②技術的な失敗;政策そのものに問題があり目的が達成されない。