特許法(発明・産業上の利用可能性・新規性)

 

 

○発明と発見

・発明=「自然法則を利用した技術的思想のうち高度のもの」(特許法第2条1項)

 ↔発見=既に存在していたものを初めて見つけ出すこと

・ただし、現代技術に対して適切な保護を与えるように「発明」について柔軟な解釈が必要

自然法則:単なる精神活動や純然たる学問上の法則、人為的な取り決めなどは自然法則を利用しているとは言えない

 cf. 錦鯉飼育法事件:藍藻類を錦鯉の餌に添加して発色をよくしようとする飼育方法は発明であるとした。(当該藍藻類の色揚げ効果が当業者にとって自明のこととはいえなかったという背景あり)

・反復可能性:当業者が反復実施することにより同一結果を得られることが必要。ただしその反復可能性が著しく低くとも、効果を挙げられることが確実であればよい。

・プログラム等について、その本質が数学的処理にあることから「発明」に該当するか議論になっていた。現在はプログラム等が「発明」に該当することが特許法2条3項に明記されている。

 

 

○産業上の利用可能性

・特許の要件の一つ cf) 新規性、進歩性、産業上の利用可能性(特許法29条)

特許法は「発明の保護及び利用を図産業上の利用可能性ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする」(特許法第1条)ものであるから、産業上の利用可能性がないものには特許権が認められない。

・産業:工業のみならず、農林水産業、工業、商業等を指し、サービス業をも含む。(ただし医療業は産業にあたらないとされている)

・利用可能性:実際上利用されることを要さず、将来において利用される可能性があればよい(基本的発明等は産業への利用に時間がかかるため)。また利用可能性には経済的利益までは要求されない。

・個人にのみ利用できる発明→産業上の利用可能性なし 

 喫煙方法など純粋に個人のためのものに関しては産業上の利用可能性が否定されるが、髪にウェーブをかける方法など産業への転用が考えられる場合は産業上の利用可能性が認められ得る。

・学術的実験的にのみ利用できる発明→産業上の利用可能性なし

 研究機関などでのみ使用されるものに関しては産業上の利用可能性が否定されるが、学校用の実験キット等に対しては産業上の利用可能性が認められ得る。

・医療方法:診断方法、治療方法等の発明に対しては産業上の利用可能性が否定される。医療技術は多くの人に解放されるべきであること、また医療方法に特許権を付与すると医師の診察に委縮効果を及ぼしうることなどの人道上の理由から導かれる。しかし医療業も市場とかかわりを持つサービス業であり、この考え方には問題もある。

 ↔物の発明:医療機器や医薬等の制御方法や製造方法については産業上の利用可能性が認められる。

 

 

○新規性(時間的基準は出願時、日ではなく時)

・特許の要件の一つ cf) 新規性、進歩性、産業上の利用可能性(特許法29条)

・新規性喪失事由

 ①公知:「特許出願前に日本国内または外国において公然と知られた発明には特許権は付与されない」。公然とは秘密を脱した状態。したがって守秘義務のある多数に知られていても公知と知られたとはならないが、関係のない一人に知られた場合は公然と知られたとなる。(秘密状態とは契約上守秘義務が取り決められた場合だけでなく、社会観念あるいは商慣習上守秘義務があると考えられるような状況(黙示的守秘義務の状況)も含む)

 ②公用:「特許出願前に日本国内または外国において公然実施された発明には特許権は付与されない」。効用というためには使用されている技術の内容が知られ得る状況になければならない。そのため、内部に発明のある発明を公に展示しただけでは直ちに公用があってとはいえない。リバースエンジニアリングが行われる状況下になった場合は、製品の譲渡の時点で公用といえるが、守秘義務を課していた場合などは製品を譲渡したとしても公用とは言えない。

 ③刊行物記載等:「特許出願前に日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明には特許権は付与されない。」刊行物には頒布による公開を目的とする文書や図面、デジタル記憶媒体も含まれる。刊行物に発明が記載されていると言うためには当業者が刊行物を見れば容易にその技術的思想を実施し得る程度の内容の開示が必要であり、発明品の外形や概要が記載されていても、当業者が容易に実施できなければ新規性は失われない。

・発明者の早期発表の利益等を損ない酷な結果となる場合があることを踏まえ30条で例外を設けている。

 

     (発明の新規性の喪失の例外)
第三〇条 特許を受ける権利を有する者の意に反して第二十九条第一項各号のいずれかに該当するに至つた発明は、その該当するに至つた日から六月以内にその者がした特許出願に係る発明についての同条第一項及び第二項の規定の適用については、同条第一項各号のいずれかに該当するに至らなかつたものとみなす。
 特許を受ける権利を有する者の行為に起因して第二十九条第一項各号のいずれかに該当するに至つた発明(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同項各号のいずれかに該当するに至つたものを除く。)も、その該当するに至つた日から六月以内にその者がした特許出願に係る発明についての同条第一項及び第二項の規定の適用については、前項と同様とする。
 前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を特許出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第二十九条第一項各号のいずれかに該当するに至つた発明が前項に規定する発明であることを証明する書面(次項において「証明書」という。)を特許出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない。
 証明書を提出する者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内に証明書を提出することができないときは、同項の規定にかかわらず、その理由がなくなつた日から十四日(在外者にあつては、二月)以内でその期間の経過後六月以内にその証明書を特許庁長官に提出することができる。
 
 出典(

http://www.houko.com/00/01/S34/121.HTM#s2

 
 
 
参考文献 『演習ノート 知的財産法〔第二版〕』(法学書院
     『知的財産法概説[第五版]』(弘文堂)